2022秋づく!フットパス椎葉・尾前コース報告

投稿日:2022年11月2日 更新日:

椎葉・尾前コース

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開催3コース目は日本三大秘境として、あるいは民俗学発祥の地としても全国的に名高い椎葉村の尾前地区でした。
一級河川耳川源流のひとつにして水質のクオリティ屈指の尾前川に沿って熊本県矢部町へ伸びる県道(現在通行不可能)と、吊橋をはさんで川沿いに伸びる生活道を下り、集合場所の尾向小学校に戻る時計回りの周回コースとして設定されました。案内人の尾川亀次さんの日頃の散策コースでもあり、集落や家々の方々とは顔なじみ、山奥に住む住人の暮らしぶりをうかがったり、交流にも最適な抜群のコースです。
そんな川沿いの段階で標高は600m超え、壁のように上下左右にそびえる険しい九州脊梁の山頂は1,300〜1,400m。すでに山々は他所のエリアより早く色づき始めており、快晴の青空と”尾前ブル−”と絶賛される尾前川の水の青さに挟まれて、鮮やかな色合いは何者にも変え難いものがありました。
尾川亀次さんはまた、椎葉の養蜂家の長として絶大の信頼があるので、ウトと呼ばれるミツバチの入る巣箱の状況を見せてもらうことにしました。
椎葉村内に約400ものウトが設置されているが、平均すると大体1〜2割しかミツバチは入らないとのこと。
「今年は1箱しか入ってないんですよね〜」
その貴重なフットパス途中にあるウトを見せてもらったのですが、そこにはミツバチが無事に入っていました。動きが鈍いのは、気温がまだ低いせいだと思われます。
歩きながら、広場でゲートボールに興じる住人、畑に鍬を入れる農家の方々と交流。桜に似ているが小さな実のつき方が不思議な樹木を聞くと、リンゴの一種ということ。かじると確かにリンゴでした。こう言う発見もまた、フットパスの醍醐味と言えるでしょう。
「台風14号で流された橋のあたりを、見せたいので行きましょう」
平成2年にも土砂崩れで甚大な被害を受けた尾前地区。当時の事を昨日のことのように思い出すという小川さんにとって、今回の被害もまた生々しい記憶でもあるのです。
ニュースなどで大きな被害を受けたことは知っていた参加者もスタッフも、現場に近づくにつれて不気味に変化する川の模様に明るい気分は徐々に減っていきました。そして橋が流された現場へ到着。
橋桁もろとも流された橋と、橋を圧し流したのと同程度の巨石の数々。陥没した道路。ドローンによる実測だと約900mに渡って崩落した斜面。ガードレールは残っているものの、道路を転がってきたと思われる、数トンはあるかと思われる巨石。そのどれもが、平和で美しい自然のもう一つの顔であることを、まざまざと思い知らされ、皆言葉が出ませんでした。そして、尾川さんの淡々とした説明に、こうした自然と向き合って生きる住人の覚悟のようなものも、同時に感じたのでした。
災害現場から少し戻り、古い路地裏からコースに設定した民家の軒先を横切ります。私有地だが、あらかじめ歩行の許諾を受けているので笑顔で応対いただきました。ちょうどご主人と話ができたのだが、この家もやはり平成2年に床上までつかり、川岸の嵩上げをしたことで今回の被害をかろうじて免れたとおっしゃっておられました。
家の先にあるのが、地元の小学生らが「幸福じぞう橋」と名付けた、増水対策用の吊り橋。この橋は簡易構造のため一度に5人しか渡れないという注意書きがあります。ゆらゆら揺れて一見危なっかしいけれど、アトラクションとしては面白い構造物と言えるでしょう。記念写真スポットとしてもふさわしい。あれだけの被害状況を見た後だけに、無傷なのが奇跡にも感じられました。
「幸福じぞう橋」から下流方向へ。歩きながら、まだ護岸のあちこちが損傷している様子が目に入ります。土砂が堆積しており、
「早くさらわないとなぁ、ヤマメの住処がなくなってしまったよ」
と、尾川さん。先の1軒の玄関先には、ご主人が釣り上げた体長60cmもある見事な「平家ます」の剥製が飾られてあり、普段は見ることのないその大きさに驚かされました。話だと、釣り糸をくわえさせたまま数百メートルも下って、ようやくに釣り上げたとのことです。
尾前神社の隣にある大銀杏はランドマークでもあり、見事な乳根を持つことから子宝の銀杏として親しまれています。銀杏のあたりには、この辺りの富豪だった家が3軒。山から湧き出た水が数台のタンクから流れ出ていたのが目に入りました。尾川さんいわく、
「あのタンクは設置して20数年、一度も掃除したことがない。それだけ水がいいということだ」
とのこと。どんなに土砂崩れがあっても、一度として濁ったことがないといわれます。
生命を育む水と、生命をともすれば奪う水の対比は、尾前フットパスの今回最大の意義だったかもしれません。
もう一度川を渡ると、出発地点の尾向小学校。ランチはすぐ近くの民宿「おまえ」にて。山の恵みがふんだんの田舎料理の数々はボリューム満点で、特に大ぶりのシイタケの天ぷらは肉厚で、まさしく山の肉といった味わいでした。蕎麦だんごの味噌汁も美味。
自然の脅威を見せつけられ、なかなか緊張が解けなかったスタッフと参加者に、ようやく笑いが戻ったひと時でもありました。

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